work 働き方

運動不足と仕事の関係性。会社ができる一歩は「知ってもらうこと」

2023/01/05 Thursday
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コロナ禍でステイホームが長くなったり、リモートワークで通勤がなくなったりしたことで「運動不足」を感じている人も多いでしょう。

従業員の健康は当然、仕事のパフォーマンスにも影響しますが、企業はどこまで従業員の運動不足解消に取り組むべきなのでしょうか?また、取り組むとしたら何からおこなえばよいのでしょうか?

本記事は、12月13日に『Alternative Work』が主催したイベント(登壇:b}stoic 代表トレーナー・鈴木孝佳、株式会社キャスター取締役CRO・石倉秀明)をもとに、対談記事にまとめました。

鈴木孝佳
パーソナルトレーニングスタジオ「b{stoic」代表トレーナーで、姿勢と不調を改善する専門家。アスリートやアーティストをはじめ、1万人以上の身体に関わる。トレーニング指導・姿勢オンラインサロン・企業講演・専門家育成セミナー・書籍執筆・メディア監修を中心に活動。著書に『疲れない体を脳からつくるボディハック』『全⼈類、背中を丸めるだけでいい』『ねこ背を10秒で改善して⼈⽣を変える』等。

石倉秀明
約800名がフルリモートワークする株式会社キャスター取締役CRO(Chief Remote work Officer)。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。妻と6歳の娘と犬と猫と暮らしている。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。

「集中できない」「イライラしちゃう」は、運動不足が原因かも?

石倉:リモートワークをしていると、座ってる時間が長かったりすることもあって「運動不足」が課題だという話をよく聞きます。ただ、職場で話していても結局「運動不足だよね」「頑張って運動しようね」くらいで終わっちゃうことが多い気がしていて、実際に会社がどこまで従業員の運動不足にコストをかけたり考えたりしているかというと、そうじゃない会社が結構多いと思うんです。
ただ、これは僕らが運動不足っていうものを実はあまり理解してないからなんじゃないか、という仮説が僕の中でありまして。そもそも、プロの目線から見ると運動不足ってどういう状態を言うんでしょう?

鈴木:運動不足の定義というのは、実はないんですよね。ただ、推奨されている運動量というのはあって、アメリカのスポーツ医学会では「1週間に150分ぐらいは中程度の運動、有酸素運動をやりましょう」と言われています。最近のデータでは、平日に蓄積した運動不足を土日で解消するのは結構難しいというデータもありまして、小まめに運動するのが大事と言われていますね。

石倉:1週間で150分ということは、1日20分くらいということですね。
運動不足になると、実際どんなことが起こるんでしょう?よくあることだと、太るとか腰が痛くなるとか、表面的なものは分かりやすいとは思うんですけど。

鈴木:大きなところから言うと、2007年の厚生労働省のデータでは運動不足って感染症などを除いた死因の3位なんです。

1位 喫煙
2位 高血圧
3位 運動不足
4位 高血糖

というふうに言われてまして、飲酒は6、7位くらい。つまり、運動不足は死に直結しかねないものと言われているんですよね。

石倉:へぇ〜。直接的な最後の死因じゃなくても、運動不足が原因でそれによって結構いろいろな症状が起きてるってことですね。

鈴木:そうですね。
身近なところで言うと、運動不足によって「なんとなくの不調」が出ている方は多いです。健康診断の数字には異常ないし、病院に行くほどの病気でもないみたいなグレーゾーンの方って結構いらっしゃってですね。「フラフラする」「立ちくらみする感じがある」「何か気持ちがのらない」とか。あとは、「何かモヤモヤして頭が回転しない」「集中力が持たない」「起きたら、もう疲れてる」「肩こり首こり」「目が疲れてる」とか、皆さん病院に行くほどでもないって思ってるんですよね。普通に抱えて生きていくものだと思っているものが、実は運動不足とか、睡眠不足・栄養不足などのいろんなことがこんがらがって起きていることも多いです。

石倉:たしかに、なかなか「目が疲れてる→ジムに行こう」みたいには考えが直結しないですよね。それと同じで、運動不足が仕事に直接何か影響を与えるかもっていう発想も持ちづらいと思うんですが、運動不足は仕事にはどんな影響がありそうですか?

鈴木:運動不足によって、いわゆる認知機能が落ちてきますので、たとえば「計画を立てる能力」「我慢する能力」「判断する能力」とかが落ちてきたり、「感情の抑制ができない」とかですね。

石倉:なるほど。じゃあ意思決定するときの判断が鈍ったり、些細なことだけどイライラしちゃったり、いろんなことを瞬時に処理するみたいな能力が落ちたりっていうのが結構如実に起こるっていうことですよね。

鈴木:そういうことですね。
面白いのが、朝、ウォーキングとかランニングをした後の数時間に認知機能が高まるという研究リサーチがあるんですよ。即時的・短期的な意味でも運動が脳に影響していることが分かりますし、以前までは神経細胞は再生しないと言われてたんですけど、ある研究では海馬とか場所によっては再生すると言われていて。運動を続けていくと脳神経由来栄養因子のBDNFというものが出てきて、認知機能がさらに高まって、記憶能力とか集中力とかいろんな機能が改善されると言われています。運動強度としては、走っていて喋ることできないぐらい、息ハァハァするレベルの運動20〜30分を数ヶ月続けるイメージ。ただ、これはあくまで最適な方法で、ギリギリ会話できるウォーキングくらいでも効果出るよとも言われてますので、ゼロよりはちょっとでも運動するのがおすすめです。

石倉:僕、だいたい朝9時ぐらいから仕事し始めて11時ぐらいまでが一番調子いいなっていつも思うんですよ。今の話を聞いてなるほどと思ったのが、仕事の前に何してるかって、犬の散歩と子どもを保育園に送ってるんですよね。そういう適度な運動をしてるから、一時的に頭が冴えてる状態が作られてるのかもしれないですね。

鈴木:そうですね、いいことだと思います。運動すると、単純に脳への血流量が上がるので、パフォーマンスは上がると言われています。そういう意味でも、歩くだけでも即時的な効果は期待できますね。

パフォーマンスを最大化する「ゾーン」状態に入るには

石倉:運動不足が仕事に与える影響を話してきましたが、具体的には脳や身体がどういった状態の時に仕事のパフォーマンスが高くなるのか、何か条件や定義のようなものはありますか?

鈴木:そうですね。一旦仕事という前提を外すと、芸術家にしてもアスリートにしてもいわゆる「ゾーン」と言われる状態が脳の最適な状態なんですよね。これは、アメリカの心理学者のチクセントミハイという人が提唱した理論なんですが。「目の前のことに集中しすぎてご飯を食べるのも寝るのも忘れてる」みたいな人っていると思うんですよ。そういうゾーンに入っているときが、一番パフォーマンスが高い状態ですね。

石倉:子どもとかそういう時ありますよね。すげー集中してるな、みたいな。
ゾーンってよく聞きますけど、結局はなんなんですかね?

鈴木:実は、「今これがゾーンだ」っていうのは本人にしか分からなくて、人からは判断できないんですよね。ただ、研究とか調査ではゾーン入る時は、「時間がゆっくりに感じる」とか「周りの音が聞こえなくなる」とか言う人が多いんですね。そこで、この自然にゾーンに入っていく流れを「フロー」と定義して、フローの中で最高潮の場所をゾーンと言う、みたいにも言われています。

石倉:どうやったらゾーンに入れるとかってあるんですかね?

鈴木:一応、いろんな研究者がゾーンに入るための条件みたいなものを提唱してはいます。「その人のレベルに最適な課題設定を与えられているとき」とか「本人が高いスキルを持ち合わせている」とか。あとは、「目標設定が主体的である」とか「集中力が高い」「全能感がある」「内的動機付けによって突き動かされている」とか、そんな感じで10個くらいあります。

石倉:今の話ってゾーンの話というか、「自立したチームや組織を作るために必要な要素」とかで出てくるのと同じような項目ですよね。

鈴木:そうですね。今回、僕が少し翻訳をしてお伝えしてるのもありますが、まさにビジネスマンにも適用できるものだと捉えられますね。ビジネスの世界でもフローに入ることはできると言われているので、どうやってそういった環境作りをするかみたいなところは大いにやりようがあるということですね。

あとですね、日常的にフローに入ることが多い人ほど、ウェルビーイングの値も高いと言われています。つまり、幸福感を感じてるってことなので、そこからなかなか離れようとはしないんですね。なので、離職率とかパフォーマンスっていう点でも、組織でも非常に大事な視点なのかなとは思いますね。

会社ができる第一歩は「知ってもらうこと」

石倉:となると、会社ができることは何なのかというところで。キャスターでも、従業員にアンケートをとると「運動不足です」と言う人は多いんですけど、「じゃあ何すればいいの?」っていうのもあるし、どこまで企業が取り組むべきなのか、結局は個人次第なのか、みたいなせめぎ合いもあるんです。

鈴木:なるほど。ちなみにキャスターさんでは何か会社でやっていることはありますか?

石倉:「オンラインフィットネス」を取り入れていて、だいたい週に1回Zoomでインストラクターさんにレッスンをしてもらってます。希望者は予約をして、受講するという形です。ただ、メンバーも結構忙しいこともあって、参加者はあまり多くはありません。
会社として課題意識はあるものの、どういうことから取り組めばいいのか、運用事例などがあれば教えていただけますか?

鈴木:そうですね。会社がどこまですべきかは企業文化次第というところもありますし、健康や運動に対する関心が強い人から全くない人までいろいろな人がいますよね。具体的には5つのステージがあって、

1.前熟考期
2.熟考期
3.準備期
4.運動して半年以内
5.運動維持期

に分かれていて、それぞれのステージによって打ち手も変わってきます。ただ、企業として一番損失が出る可能性があるのは、1の「健康に全く興味がない人」だと思うんですね。

無関心を関心へ向けるには、「知ること」「知識」が大事だと言われています。「自分がいずれ何らかの病気になる可能性があるというのを知る」「自分の人生に大きなダメージを与える可能性があることを知る」ということですね。私が企業に呼ばれて研修を行うのは、まずこの役割が1つです。

石倉:「マズイって知る」っていうのが、一歩目として大事なんですね。
会社の施策としてやると、どうしても動いてくれない人っているので、動かない人は一旦仕方ないとして、動く人に何かできるか効率性を求めてしまいがち。でも、運動不足のリスクを「知る」っていうことで、動かなかった人が動く人に変わる可能性があるなら、なんかちょっと今までと違うことができるかもしれないと思いました。

鈴木:そうですね。一方で、ある企業さんでは「ビジネスアスリートを育てる」ということで、健康志向の高い5%の方だけに向けたカリキュラムを用意して登壇したこともあります。そういうのもアリだとは思いますね。

ステージによって何を提供すべきかは変わってきますが、1の前熟考期から3の準備期まで皆必要なのってやっぱり「知識」なんですよね。知識と後は「きっかけ」って言われてるので、ポンと背中を押すタイミングさえ合えば行動に移るので、そこが一番企業として取り組むにはROIが高いとは思いますね。

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※本記事は、 2022年12月13日に『Alternative Work』が主催したイベントの内容を編集して作成しています。
『Alternative Work』では、毎月ゲストを招いた対談イベントを開催しています。興味のある方は、ぜひお申し込みください。

鈴木さんの寄稿記事はこちら
従業員の運動不足とどう向き合う?組織としてできる3つの健康施策

脳から「ととのう」。仕事のパフォーマンスを上げる3つの方法

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山咲 かもめKAMOME YAMASAKI

企業内起業家、兼ライター。建築・金融・不動産業界にて15年働いた経験を活かし、企業の新規事業開発やマーケティングをサポート。休日はフォトグラファーとしても活動中。2020年に個人で不動産投資を開始、将来の夢はメガ大家さんになること。