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脳から「ととのう」。仕事のパフォーマンスを上げる3つの方法

2022/12/06 Tuesday
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最近、よく聞くようになった「ととのう」という言葉。

サウナ界隈で特に用いられており、「気持ちが安らいだ」「体の緊張がほぐれた」などを意味する言葉として口にしたことがある人も多いのではないでしょうか。また近年では、サウナに限らず、ヨガ・マインドフルネスなど「ととのえるコンテンツ」が注目を集めています。

なぜ、現代に生きる私たちは「ととのう」ことを求めるのでしょう?

本記事では「現代人に必要なととのい」について、パーソナルトレーニングスタジオ「b{stoic」の代表トレーナー・鈴木孝佳さんに伺いました。

なぜ、現代人は「ととのい」を求めるのか?

今回は「サウナ的ととのい」から離れ、「現代人に必要なととのい」について運動と脳の観点からお話していきます。

まずは、「ととのう」を定義しておきましょう。

辞書を引くと、ととのう(整う)は「望ましい状態。調整された状態」とあります。「体調を整える」が身近な表現ですが、「体の不具合がない状態」と言えるかもしれません。

痛みがない、疲れがない、心のざわめきがない…。心身ともに快適な整った状態を「ととのう」と定義して話を進めます。

ととのっている状態をつくるためには、適度なリラックスが必要です。そして、リラックスするために重要なのは「安心と安全」を確保することです。これは、大昔から続く脳の仕組みに由来します。

大前提として、脳は生存を最優先するように設計されています。

1つ例を挙げましょう。
「プレゼンテーションで頭が真っ白になって、何を話しているかわからなくなった」という状況になったとします。これはまさに、極度の緊張により生存行動が優先され思考が停止した状態です。

なぜこのようなことが起こるのかというと、私たちの脳をはじめとする身体スペックが1万年前から変わっていないからです。

遥か昔、私たちがサバンナにいた頃は、今ほど生存が確保されていません。常に命の危険と隣り合わせのなか、日々を過ごしていました。サバンナでライオンが現れた時、「ライオンが来たな、飛びついてきそうだな、どうしようかな」などと悠長に考えていたら命がいくつあっても足りません。非常事態では、すぐさま戦ったり逃げたりできるように無意識に「闘争逃走モード」、いわゆる交感神経レベルを高め危機を乗り切ります。

このようなモードの切り替えが現代の私たちにも引き継がれており、「大衆へのプレゼン」に対して発動したがために、頭が働かない状態に陥ったということです。
心では恐れや不安、怒りなどさまざまな感情が立ち昇り、体は心臓バクバク、息もあがっているかもしれません。到底、心身がととのっている状態ではありませんね。

「安心・安全」を感じられない状況では、交感神経レベルが高くなりリラックスとはほど遠い状態になってしまうということです。

そして、現代人は交感神経が過剰にONになりっぱなしの状態と言えます。

そもそも、交感神経は危機が迫ったときにスイッチがONになり、過ぎ去れば速やかにOFFになるべきシステムです。しかし、現代では危機を感じる状況はなかなか過ぎ去りません。というのも、我々が感じている危機は一時的なものではないからです。

仕事を簡単に辞めることもできなければ、来月の漠然とした不安を今から抱えたりもします。仕事・家族・友人・金銭面など…あらゆるストレスが常に降り掛かっています。

そんな現代に生きる私たちが「ととのい」を求めるのも納得できるかもしれません。

慢性的な“交感神経ON”がもたらす不調

交感神経が常に昂った状態だと、健康にはどのような影響があるでしょうか?

交感神経がONになっていると、血液は骨格筋に集中し、内臓では減少します。すると、食べたものを消化吸収する能力が低下し、必要な栄養を確保することができません。
栄養が行き渡らなければ、細胞の機能は低下し、あらゆる不調につながります。(生物は細胞の集まりですから当然ですね)
消化吸収能力が低下した状態で食物を胃腸に運んでも、消化不良を引き起こす可能性もあります。

また、交感神経がON=体は闘争逃走モードですから、睡眠の質も低下します。寝つきが悪い、夜中に起きる、寝ても疲れが取れない…このような状態を引き起こします。睡眠不足が健康の大敵であることは誰もがご存知でしょう。

ちなみに、睡眠とマネジメントの関係には面白い研究結果があります。リーダーは睡眠の質が悪いほど部下に当たりがちになったりケアが足りなくなったりして、たとえ部下の睡眠が十分でも、部下のモチベーションが低下するというものです。睡眠不足の状態では、感情の制御能力が低下することから結果的にマネジメントにも影響が出るようです。

さらに、交感神経の興奮が続くと慢性炎症の原因になります。慢性炎症は、ガン・糖尿病・心疾患・脳疾患・うつ・アルツハイマー病など万病のもとと言われています。

今挙げただけでも、交感神経がずっとONになっているとさまざまな不調につながることが分かります。

日常で「ととのう」ための3つの方法

心身がリラックスし「ととのう」ためには、交感神経の昂りを抑え、副交感神経の働きを高めることが大切です。

そのための方法を3つご紹介します。

① 長くゆっくりとした呼吸を10分程度行う

呼吸は非常に利用価値が高い行為です。

なぜなら、呼吸は唯一、意図的に自律神経の活動に介入することが可能だからです。
呼吸を長くゆっくりおこなうと、交感神経の活動が低下し、やがて副交感神経の活動が高まります。

ここでのポイントは、最低数分できれば10分以上続けることです。交感神経は瞬時にONになるのに対し、副交感神経は活動し始めるまでに10〜15分ほどかかると言われています。
「7秒吐いて、3秒止めて、5秒吸う」というリズムで行ってみましょう。

睡眠前に仰向けで行うと、不要な情報をシャットアウトし、睡眠へ向かう準備にもなります。

② 身体図式を明確にする

脳には、体の各部位に対応する地図が存在します。

脳はこの身体図式をもとに、「今自分の体のどこが、どんな状態になっていて、何をしようとしているのか」を常に把握しています。

これらの情報は、全身にあるセンサーから脳へと届けられますが、運動不足になると情報がアップデートされず地図がぼやけてきます。つまり、自分の体がよく分からない状態になってしまうということです。

たとえば、ガードレールを跨ごうとして足が引っかかったり、小指を角にぶつけたりなどという経験に心当たりのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。これらは、身体図式がぼやけているサインです。

脳は自分の状態を把握できなくなると、体に緊張を引き起こします。そもそもヒトは直立二足歩行であり、重心が高い位置にあるため、極めてバランスをとるのが難しい動物です。体の把握ができないということは転倒リスクが高まるということであり、それを避けるために体は緊張します。

身体図式を明確にするには、全身の関節を動かすことが大切です。簡単にできる運動としては、ストレッチをしたり、ラジオ体操を活用したりするのも手です。デスクワークの合間や仕事前後にやってみてください。

③ 有酸素運動をおこなう

「ウォーキングやランニングができる状態ならば、必ずやりましょう」

これは、私が常々クライアントにお伝えしていることです。
ウォーキング・ランニングをはじめとする有酸素運動による健康への恩恵は、さまざまなエビデンスで証明されていて、おそらく今後も覆ることはないでしょう。

さまざまな効果があるなかで1つ取り上げるとすると、ストレスへの耐性が向上することです。私たち現代人はストレスに取り囲まれていると言いましたが、そんなストレスに対する抵抗力を高めてくれます。

ウォーキング・ランニングをする際、最初は会話が可能な強度で行うのがおすすめです。
運動強度でいうと、50%程度に相当します。1回20〜30分を目安にやってみてください。

以上が、日常生活の中で自律神経をととのえる方法です。

安全安心が認識され、脳が生存を優先しないとき、脳のパフォーマンスは最大化されます。ここでいうパフォーマンスとは、思考力・創造力・ひらめき・コミュニケーション・感情の抑制などです。

一流アスリートがゾーンに入るとき、交感神経と副交感神経のバランスが取れていると言われていますが、私たちの仕事のパフォーマンスも脳からのアウトプットによるものです。

脳が働きやすい環境にできるかは、日々のあなたの行動の積み重ねで決まるのです。

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鈴木孝佳TAKAYOSHI SUZUKI

パーソナルトレーニングスタジオ「b{stoic」代表トレーナーで、姿勢と不調を改善する専門家。アスリートやアーティストをはじめ、1万人以上の身体に関わる。トレーニング指導・姿勢オンラインサロン・企業講演・専門家育成セミナー・書籍執筆・メディア監修を中心に活動。著書に『疲れない体を脳からつくるボディハック』『全⼈類、背中を丸めるだけでいい』『ねこ背を10秒で改善して⼈⽣を変える』等。

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