2023年1月、アクティブユーザー数1億人を突破したAIチャットサービス「ChatGPT」。
仕事でのさまざまなAIチャット活用方法が模索されていますが、使いこなすにはどのようなスキルが必要なのでしょうか?また、使いこなせないと私たちの仕事はどうなってしまうのでしょうか?
部下や同僚がAIに変わる時代を見越し、今後の仕事への影響やビジネスパーソンに求められるスキルについて考えます。
部下や同僚がAIに変わる時代?
2022年11月にAIチャットサービス「ChatGPT」がリリースされ、さらに2023年3月には「ChatPGT」に搭載されている言語処理モデルがGPT-4にアップデートされた話題で持ちきりです。「まさにインターネット以来の衝撃だ」と言う人もいれば、「これでミドル層のホワイトカラーは一気にいらなくなるのではないか」という意見まで出てきていて、2023年のテクノロジー領域において最大の話題と言えるでしょう。
私も「ChatGPT」をはじめとした自然言語処理技術を活用した生成AIの台頭と進化に関しては、目を見張るものがあると考えています。実際に、この技術を利用したソフトウェアやアプリケーションはこれから数ヶ月のうちにどんどん出てくることが予想されますし、そうなると私たちの仕事の仕方に少なくとも影響はあるでしょう。
そこで今回は、私が毎日少しずつですが「ChatGPT」を使ってみてわかってきたことをもとに、AIが私たちの業務に入ってきた場合のことを考えてみようと思います。
具体的に想像できることとしてわかりやすいのは、仕事の指示を出す相手が人間ではなくAIになることではないでしょうか。
管理職に就いている人はもちろん、仕事において誰か他の人に仕事を依頼しない人はほぼ存在しないでしょう。部下に対しては「指示」かもしれませんし、同僚に対しては「依頼」かもしれませんが、何かしら他の人へ仕事を依頼するコミュニケーションを私たちは頻繁に行っています。
AIへの指示で大切なのは「プロンプト力」
では、部下や同僚がAIに代わると、どのような変化があるでしょうか?
私はここ1ヶ月ほど、毎日AIに対してあらゆることを指示してみて実感したことがあります。それは、AIにその能力を発揮してもらうには「プロンプトの書き方」が肝だということです。
プロンプトとは特定の動作をするよう促すもののことで、要するにAIに対する指示のことです。このプロンプトをきっちり書けない、つまり適切に指示ができないとAIは的外れな答えを出してくることも日常茶飯事ですし、答えを出してくれないこともあります。
「指示を出すくらい、今もやっているし問題ない」と思う方も多いかもしれません。ただ、今までと同じようなコミュニケーションでAI相手に指示を出しても、AIはほとんど正しく動いてくれませんし、AIの能力を十分に発揮してくれるようにはなりません。
なぜでしょうか。
それは、AIに行う指示、つまりチャットを使ったテキストでの質問や指示は日々我々が行っている言語を通じたコミュニケーションとは違うからです。
「ChatGPT」でのプロンプティング(プロンプトを行うこと)は、部下や同僚への質問や指示というより、自然言語によるプログラミングと言っても過言ではないと思います。残念ながらAIは過去の文脈を理解したり、周囲の人間関係や会議中の空気を察したり、顔色をうかがったりはしてくれません。また、質問者のコミュニケーションや言葉遣いの癖を理解したり、言葉にはしていないけれど行間を読んで動いてくれるなんてこともありません。
さらに、AIは質問者がどんな仕事の仕方を好むのかも考慮してくれません。7割の出来でもいいので早く提出してほしいのか、10割の出来で提出してほしいのか、都度相談してほしいのか、それとも自分でできるだけ調べて考えてから提出してほしいのかなど好みを理解して動くことはないのです。
AIは文字通り、指示された通りにしか動きません。そして、その指示はAIがわかるように行わなければ理解してもらえないわけです。
つまり、これからのビジネスパーソンはAIに合わせた「プロンプト力(指示力)」を身につけないといけなくなったということでもあります。
今こそ必要なのはビジネスパーソンの基本スキル
では、AIにわかりやすい指示とは何でしょうか。
それは、「やってほしいことが分解されていること」「分解した要素が論理的に成立するように並んでいること」そして、「求めるアウトプットの期限・形式・条件などが明確に指定されていること」です。
まさにプログラミングと同じで、1行ずつ明確で、全体を通して矛盾がなく、漏れなく指示を出さないといけません。AIに対して、今まで部下にしていたように「いい感じでよろしく」と伝えても動いてくれることはありませんし、曖昧な指示はAI部下には結果的に無視されてしまいます。
つまり、指示を出す能力(=プロンプト力)を鍛えないと、AIと仕事はできないことになります。AIにうまく指示を出せないビジネスパーソンは、逆にAIが整理したタスクを行うこと、いわゆるオペレーションの領域しか残されていないでしょう。
しかし、不安になることはありません。というのも、プロンプト力を鍛えることは実は特別なことではありません。
プロンプト力は、「物事を分解する能力」「論理的に考える能力」「母国語を操り、伝えたいことを整理してわかりやすく伝える能力」「自分が求めていることを明確にする能力」。つまり、ビジネスパーソンが持つべき基本的な仕事力に繋がります。
AIが部下・同僚になる時代の到来──いわゆる「思考力」「コミュニケーション能力」の基本的な能力こそが、ビジネスパーソンにとって持ち運べるポータブルスキルと言えるのではないでしょうか。
「ChatGPT」について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
「無料の対話型AIサービスを比較。それぞれの返答は?」
「ChatGPTを進化させるChrome拡張機能5選」
石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA
働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。