多くの職種で推進されるDX(デジタルトランスフォーメーション)ですが、経理部門ではあまり進んでいないという声もあります。
日常の事務的な処理から、経営や事業に影響する重要な対応まで、幅広い業務を内包する経理部門。DXに取り組むには、何からどのように進めればよいのでしょう。
今回は経理部門のDXの進め方について、「初級・中級・上級」のレベル別にお伝えします。
小さな会社の経理部の「新規立ち上げ」から大企業の「既存業務のアウトソーシング」まで、累計200社を超える企業の経理業務を請け負うクラウド経理サービス。日常の仕訳はもちろん、経理コンサルまで幅広く対応しています。
根強い紙文化が、DXの壁に
日本CFO協会の調査によると、リモートワーク実施中に社員が出社する必要があった企業が、全体の41%もあったことがわかりました。出社しなければならなかった理由は「紙媒体での業務遂行」「押印作業」「自社システムへのアクセス」「会議・銀行対応」など。紙やハンコの文化が残っていること、システムのクラウド化ができていないことなどが労働環境に影響していることがわかります。
そもそも、経理部門がDXを実現するメリットにはどんなことが挙げられるでしょうか?改めて整理してみると、以下のようなメリットが考えられます。
- 単純作業を減らし、付加価値の高い業務にリソースを割くことができる
- ペーパーレス化によりリモートワークを活用でき、優秀な人材を獲得しやすくなる
- 手作業や属人化した作業を削減でき、ガバナンス向上につながる
- 業務の一部または全部をアウトソースしやすくなる
たしかにメリットは複数あるものの、大小さまざまな業務を請け負う経理部門で1度にすべてをデジタル化するのには無理があります。そこで、今回は初級・中級・上級の3つにレベルを分けてDX推進法をお伝えします。
初級:「紙の書類のデータ化」からスタート
まずは、紙の書類のデータ化(電子保存)を始めることが第一歩です。
請求書や領収書、各種伝票、経費精算時の申請書などの書類をスキャンして、データ化することから始めましょう。もちろん、これまで保管してきた紙をすべてデータ化するのは手間と時間がかかりますが、長期的に見た時に経理業務の作業効率アップに繋がるので、少しずつでも取り組むことが大切です。
書類をデータ化する際に重要なのは、データ化は目的ではなく手段だということ。データ化して終わりではなく、いずれ発生するであろう業務フローを具体的にイメージし、どのように活用するのかを考えて保管方法を工夫しましょう。
コツは、ファイルやドキュメントの名前のつけ方「リネーム」のルールを最初に決めておくことです。あとから並べ替えや検索がしやすいように、日付や社名など、必要な情報をどの順番でリネームするのかルール化しましょう。全角・半角、アルファベットの大文字・小文字など細かい部分まで統一しておくと活用がスムーズです。
この時、「DropBox」や「Google ドライブ」などのオンラインストレージサービスを使うと便利です。コストを抑えつつ、閲覧・編集権限を設定できるのでセキュリティ面にも配慮しながら進めることができます。
なお、2022年1月から電子帳簿保存法が改正され、電子取引の電子データ保管が義務づけられるようになりました(2023年12月31日までは猶予期間)。改正では電子取引が対象ですが、紙の書類のデータ保存も併せて進めておくとよさそうです。
電子帳簿保存法の詳細については、以下の記事で解説しています。
「電子帳簿保存法をわかりやすく解説!会計ソフトの対応は?」
中級:「ワークフローのデジタル化」に挑戦
社内の各種申請に、紙の出力と上司のハンコが必要──そんな社内ワークフローを見直し、デジタル化するのが中級のフェーズです。紙での運用を、システムで処理できるように変えていきましょう。
ワークフローのデジタル化は、経理部門にとってだけでなく、申請・承認を行う他部署の従業員にとっても効率化に繋がるため、会社全体にポジティブな影響をもたらします。
具体的には以下のようなメリットが挙げられます。
- 申請から承認まで、すべてリモートで対応できる。スマホ連携が可能なシステムを選べば、移動中や隙間時間にも対応でき、業務効率が上がる
- セキュリティレベルが高まる。申請書類の紛失や権限者以外による閲覧、申請内容の改ざんなどの防止に繋がる
- 状況を把握しやすくなる。案件ごとのステータスが一目瞭然で、対応しやすくなる
- 複数人で担当でき、業務の属人化を防げる。特定の担当者しか対応できない、業務が集中してしまうなどの事態を防げる
- コストを削減できる。紙の購入や出力、書類の保管場所、管理などにかかるコストを削減できる
なお、2023年10月から始まるインボイス制度にスムーズに対応するという意味でも、「freee会計」「マネーフォワード クラウド」「楽楽シリーズ」などのSaaS(クラウドで提供されるソフトウェア)を導入するのも一手です。
インボイス制度の詳細については、以下の記事で解説しています。
「消費税のルールが変わる、インボイス制度。企業側がおさえるべき点とは?」
上級:「全社システムの見直し」へ
ワークフローのデジタル化まで完了したら、全社で利用しているシステムの見直しに取り組むのが上級フェーズです。
経営や事業への影響から経理部門だけ判断できないこともあるため、他部門の意見も取り入れ、会社全体を巻き込みながら進めるのがよいでしょう。
この時に忘れてはならないのは、DXの目的です。「単純作業の削減」なのか、「優秀な人材を確保すること」なのか、はたまた「経営判断のスピードアップ」なのか。目的によって、ビジネス全体を連動させる「ERP」(Enterprise Resources Planning、統合基幹業務システム)を活用するのか、システムの一部をアウトソースするのかなど解決方法も異なります。
また、長年使っているシステムを変えるのは、導入側だけでなく利用者側も労力を要します。「なぜ今、DXの必要があるのか?」を周知し、皆で共通の目的意識を持てることが重要です。
今回は経理DXの進め方をレベル別にお伝えしましたが、重要なのは、一気にすべてを進めようとせず、可能なところから着手することです。
DXのXは「トランスフォーメーション(変革)」。単にデジタルを活用するフェーズから抜け出して、経理部門の改革ひいては全社の業務フローをどう変革するかという視点を持てるかどうかが、DXの本当の意義と言えるのではないでしょうか。
さくら もえMOE SAKURA
出版社の広告ディレクターとして働きながら、パラレルキャリアとしてWeb媒体の編集・記事のライティングを手掛ける。主なテーマは「働き方、キャリア、ライフスタイル、ジェンダー」。趣味はJリーグ観戦と美術館めぐり。仙台の街と人、「男はつらいよ」シリーズが大好き。ずんだもちときりたんぽをこよなく愛する。