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「3歳までテレワーク努力義務」炎上の2つの誤解と今後の課題

2023/06/15 Thursday
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2023年5月、厚生労働省の「子どもが3歳になるまで従業員がテレワークを選べるようにすることを企業の努力義務に」という方針が発表され、ネット上ではネガティブな声が噴出。しかし、炎上の裏にはどうやら誤解も多い模様。改めて、事実関係や世の中の声、今後について整理してみました。

現行の育児休業制度と短時間勤務制度のおさらい

そもそも今回の「3歳までテレワーク努力義務へ」という施策は、仕事と子育ての両立を支援する現行の育休制度や時短勤務制度などに、テレワークという選択肢を追加したらいいのではないかという話から始まっています。

実際に、厚生労働省の 「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会(第7回)」の資料にはこのような記載があります。

テレワークは、通勤時間が削減されることなどにより仕事と育児の両立のためにも重要なものとして位置付けられてきた。また、コロナ禍を機に柔軟な働き方の一つとして一定の広がりも見られる。さらに、企業に対するヒアリング等においても、テレワークを育児との両立のために活用する事例が確認された。

現行の育児休業制度や短時間勤務制度の単独措置義務は維持しつつも、現在、努力義務となっている出社・退社時間の調整などに加えて、テレワークを努力義務として位置付けることとしてはどうか。
また、短時間勤務が困難な場合の代替措置の一つに、テレワークも設けてはどうか。

まずは、今ある育児支援の制度をおさらいしましょう。

育休制度は原則、子どもが1歳の誕生日を迎える前日まで取得可能で、夫婦とも育休を取得すれば子どもが1歳2ヶ月になるまで延長できます(パパ・ママ育休プラス)。

そして、育休から復帰した後、子どもが3歳未満の間は以下の制度が利用できます。正社員に限らず、非正規社員・派遣社員・パートタイムでも利用可能です。

1,短時間勤務制度
1日の所定労働時間を短くする、いわゆる「時短」制度です。従業員から申し出があれば、1日の所定労働時間を6時間とすることが法律で決められています。 育児では「子が3歳に達するまで」取得可能です。
所定労働時間が短くなり、育児や家事との両立をしやすくなる一方、減った労働時間の分だけ給与やボーナスが減額されるというデメリットがあります。

2.残業(所定外労働)の免除制度
残業が免除される制度です。子どもが3歳以上になると対象から外れますが、小学校入学前までは対象に含めるよう、企業に努力義務が課されています。ただし、毎月の給与が固定残業代を含めて支給されている職場では、この制度を利用すると収入が減る可能性もあります。また、雇用期間が1年未満の方は対象外とされるケースがあるので要注意です。

3.時間外労働や深夜業務の制限
小学校就学前までの子どもを持つ従業員が申請した場合、月24時間、年150時間を超える時間外労働や、22時~朝5時までの深夜労働が制限されます。

このような現行の制度に加え、「テレワークという選択肢を加えることで、仕事と子育ての両立をより支援できるのではないか」というところから今回の話は始まっているのです。

テレワークは選択肢。厚生労働省が進めたいこととは?

厚生労働省が今ある制度に加えて、新しく進めようとしているのは以下の2つです。

1.3歳までの子どもがいる従業員がテレワークで働けるよう、働き方の選択肢を追加する

あくまでも「テレワークという選択肢を加える」という考え方で、すべての従業員にテレワークを強制するものではありません。また「努力義務」であり、リモートワークが不可能な業種・職種に強制する趣旨でもありません。

テレワークによって通勤時間がなくなることで、フルタイム勤務が可能になったり、浮いた時間で家事をこなしたりできることが期待できます。

2.残業の免除権を「小学校就学前まで」に延長する

現行では3歳未満までが対象で小学校就学前までは努力義務にとどまっていますが、残業の免除権を「小学校就学前まで」に延長することが検討されています。

残業が免除されることで、育児や家事をしやすくなる人は多いでしょう。その期間を延ばすことで、安心して働き続けられる人が増えると考えられます。

つまり、「3歳までテレワーク努力義務へ」といっても、決して「3歳未満の子どもを持つ人は、全員テレワークしよう」ということではないのです。また、進めようとしているのはテレワークの導入だけではなく、あらゆる方面からの改善が検討されています。

SNSで大炎上…どんな怒りの声があがったのか

厚生労働省の発表は多くのメディアがニュースとして取り上げ、それを見た人たちの間でTwitterをはじめとするネット上の議論が勃発。このような怒りの声があがっていました。

「3歳未満の子がいてテレワークって物理的に無理。子どもが家で騒いでたら仕事なんてできないのに、国はわかっていない」

「在宅勤務だからといって、家に小さい子どもがいたら仕事にならない。これは、コロナ禍で多くの親が経験したはず」

「子持ちに限らず、誰だってテレワークできるならテレワークがいい。不公平感は分断の元だ」

「テレワークだと保育園に預けにくくなると聞いた。かといって、家で育児しながら働くことはできないし、ただ不安」

「子育て支援の福利厚生が充実した企業で働く夫婦と、そうではない夫婦の格差が広がる」

「子どもが3人いたら、最大9年間テレワークし続けられる。実質“テレワーク専門の人”ができあがり、職場の負担が大きすぎる」

「ほんとにテレワークしたいのは小学生から。保育園は長時間預けられるけど、それがなくなる”小1の壁”の方がキツい」

「テレワークできない、製造業やサービス業で働く人、エッセンシャルワーカーのことはどう考えているのか?」

「3歳までテレワーク努力義務」が炎上した2つの誤解

実際にあがった声をふまえると、今回の炎上理由は大きく2つに分類できそうです。

  • 「全員テレワークすべき」の誤解
  • 「テレワーク=子どもを見ながら仕事できる」の誤解

まず、最大の誤解は「全員テレワークすべき」という誤解です。

冒頭から触れてきた通り、提示しているのはあくまで選択肢の追加で「3歳未満の子どもを持つ人は、全員テレワークしよう」ということではありません。

子どもを持つ親が、それぞれに合った働き方を選びながら働けるようにしたいという考えが、ニュースの切り取りやネット上での伝言ゲームによって、いつの間にか義務的なものに映ってしまったようです。

2つ目は、「テレワーク=子どもを見ながら仕事できる」の誤解です。

ネット上には「テレワークなら、子どもの世話をしながら勤務できると国は考えている」という意見がありましたが、実は、厚生労働省の 「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会(第7回)」にはこのような記載があります。

育児との両立に活用するためには、就業時間中は保育サービス等を利用して就
業に集中できる環境が必要である

つまり、子どもの世話をしながらテレワークすることを想定しているわけではないのです。

2024年にも関連法の改正。今後の課題は?

政府は、2024年にも育児・介護休業法など関連法の改正を目指すとのこと。今回の炎上は誤解が主な理由ではあったものの、実際に「3歳までテレワーク努力義務へ」の実現は一筋縄ではいきません。

デジタル化が進んでいない企業などにとってはテレワーク対応へのハードルが高い現状がありますし、テレワークしやすい社会の仕組みづくりも必要です。最近は“在宅差別”をなくすよう見直されつつありますが、「テレワークは育児も兼ねられる」「通勤時間が短い」と、自治体によっては保育園入園の優先順位が下げられていた事実もあるようです。

また、もしこの制度を使うのが女性ばかりになってしまうと、結果的に女性が仕事も育児も担うというような偏りも生じかねません。サービス業・介護・医療などのエッセンシャルワーカーなどに向けた支援も別途必要になるでしょう。

このような課題をクリアしながら、少しずつでも働き方の選択肢を広げていくことが期待されます。

なお、18歳以上の全国の男女2,400人を対象にした紀尾井町戦略研究所のアンケート調査によると、「子どもを持つことをためらう理由(複数回答可)」は、18〜45歳で「経済的に不安がある」が最多で39.7%でした。時短勤務を選ぶと、ただでさえ出費の多い育児期に給与が減ってしまう…と悩む家庭にとっては、リモートワークを使ってフルタイムで働けるようになればありがたいですね。

“子育て罰”がまかり通る世の中を変えようと、働きやすい環境づくりに試行錯誤しているのは私たちも国も同じ。ニュースや炎上に反射的に反応するのではなく、背景やソースを客観的にとらえる目を持てるかどうかで世の中の見方も変わるかもしれません。

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さくら もえMOE SAKURA

出版社の広告ディレクターとして働きながら、パラレルキャリアとしてWeb媒体の編集・記事のライティングを手掛ける。主なテーマは「働き方、キャリア、ライフスタイル、ジェンダー」。趣味はJリーグ観戦と美術館めぐり。仙台の街と人、「男はつらいよ」シリーズが大好き。ずんだもちときりたんぽをこよなく愛する。

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