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リモートワークか否かが問題ではない。怪しい会社に転職しないために

2024/02/22 Thursday
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働き方に関する調査・分析・研究を行うラボ「Alternative Work Lab」所長・石倉秀明による定期記事。今回はニュース記事から、怪しい会社に転職しないために気をつけるべき論点を考えます。

論点は「完全在宅」ではない?

  • 完全在宅の求人に応募して、オンライン面接をした
  • 社長が顔を映さないまま、その場で採用が決まった
  • 書面での通知や契約がないまま、入社して業務を開始した
  • 2ヶ月間給与が振り込まれず、健康保険も厚生年金も加入されていなかった

これは、最近話題になった「西日本新聞me」のニュース記事(2月5日、Yahoo!ニュース転載)に書かれていた内容の一部です。

記事では、「労働者の使い捨てが起きやすくなっている」「完全オンラインの危険性があらわになった」と警鐘が鳴らされています。

しかし、この問題の本質は果たして「完全在宅であること」なのでしょうか。

論点を見誤ってしまうと、同じような問題が起きてしまうかもしれません。そこで今回は、この件をもとに本当の問題点・論点を整理してみたいと思います。

問題点1:面接時の企業側の対応

1つ目の問題点は、面接時の企業側の対応です。記事には、オンライン面接時に社長が顔を映さずに、その場で採用が決まったと書かれています。

面接の場なら、方法がオンラインだとしてもお互いに顔を出して話すというのは重要なことです。全員がフルリモートワークで働く株式会社キャスターは、日頃の社内の会議では画面オフ(顔出しなし)で話すことを推奨していますが、面接の場では顔を出して話をします。

さらに、それ以上に個人的に気になるのは「その場で採用が決まった」ということです。

現在の日本の採用場面において、面接の場で採用が決まったようなことを伝えた場合、それが書面でなく口頭だったとしても、後から「やっぱり不採用で」という扱いをすることはほぼ不可能です。「私は一緒に働きたいと思いました」のような言動も、実質「内定」と捉えられる言葉を面接時に発することは、後々トラブルに発展するリスクがあるため避けるのが一般的です。

それにも関わらず、その場で採用を決定しているという行為からは、この会社がそういったリスクを理解していない、またコンプライアンスの意識が希薄である可能性が高いことがうかがえます。

問題点2:口約束のみで入社

2つ目の問題点は、口約束のみで入社までのプロセスが進んでいる点です。

本来、内定が提示された場合、労働条件通知書を原則書面によって通知し、改めて双方で雇用条件などに齟齬がないかを確認します。そして、諸条件に問題がなく入社を承諾した場合は、雇用契約書を準備し、捺印をすることで雇用契約締結を行います。

しかし、今回の場合、労働条件通知書が交付されなかったとのことです。もちろん、口頭でのやりとりでも契約自体は成立しますが、書類が準備されておらず、かつ細かい条件も提示されない会社という時点で怪しい会社である可能性が想像できますし、トラブルのもとにもなってしまいます。

転職の際は、契約書をしっかり書面で準備してもらい、不明点などを確認した上で入社することをお勧めします。

問題点3:雇用に関する手続きが杜撰

3つ目の問題点は、給与未払いに加えて、さまざまな雇用に関する手続きがなされていなかった点です。

この会社では、健康保険証が1ヶ月経過しても届かず、厚生年金にも加入していなかったと記事に記載があります。

本来、企業は1名でも雇用していれば加入義務がありますが、それが行われていなかったということです。このような事態を入社前に予測することは不可能ですが、会社として杜撰であることは間違いありません。

また、給与未払いが複数人に起こっていたことを考えると、事業がうまくいっていない可能性も高いと思います。確信犯で給与を未払いしていた可能性も完全に否定はできませんが、単純に会社の口座にお金がなく結果的に「払えない」状態だった可能性はあります。

在宅/出社に限らず、怪しい会社を見極めよう

このように整理してみると、「完全在宅であること」が論点ではなく、あまりにコンプライアンス意識が低く、経営が杜撰であり、かつ事業としてもうまくいっていない会社に当たってしまったということなのだろうと思います。

もちろん、在宅だからこそ「顔出ししない」「オフィスを見られる心配がない」など、取り繕いやすい点も多少はあるかもしれません。しかし、今回挙げた3つの問題点は、在宅勤務かオフィス勤務かに関係なく、雇用関係でトラブルが起きる会社にはよくあることでもあります。

どんな働き方であっても、転職活動をする際には、しっかりと正規のプロセスを踏んでいる会社かどうかという視点で見ることが重要です。

また、今回は求人サイトで募集していたということですが、このような会社であれば求人サイト運営会社に多くのクレームが寄せられ、掲載停止になるはずです。そうなると、同じ求人サイトが使えなくなるので、他の求人サイトで掲載せざるを得ません。

もし、転職活動をする場合、その会社が過去にあらゆる求人サイトを使いまわしている傾向があったら要注意企業かもしれない、と慎重に判断することも必要かもしれません。

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石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA

働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。

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