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2022年、激変の「男性育休」。法改正のおさらいと各社の事例を紹介

2022/08/02 Tuesday
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2022年4月より段階的にスタートした「育児・介護休業法」の改正。日本でも、まとまった期間の育児休業(育休)を取得する男性をだんだんと見かけるようになってきました。
さらに、10月1日からはいよいよ「男性版産休(産後パパ育休)」もスタート予定。果たして、企業としては何にどう対応すべきなのか――変更のポイントや、各社の具体的な事例をご紹介します。

日本の男性の育休取得率は13%弱

まずは、日本の現状について。厚生労働省の調査(※1)によると、男性の育休取得率は2020年度で「12.65%」。ひと昔前に比べれば高くなってきたものの、女性の育休取得率「81.6%」に比べると圧倒的に低いのが現状です。
さらに、育休を取った男性のうち育休期間が「5日未満」という割合は28.33%(※1)。せっかく育休を取っても、5日未満という超短期では、腰を据えて育児に取り組むことは難しそうです。
このように、まだまだ低い日本の男性の育休取得率。国は「2025年に30%」という目標を定め、達成に向けて法整備を進めてきました。まず、2022年4月に施行された内容はこちらの3点です。

●企業は、妊娠・出産(本人または配偶者)を申し出た労働者に対して、育休制度や申し出先、育休給付などについて個別に周知し、取得の意向を確認することが義務に
周知や意向確認の方法は、オンライン面談でも可とされています。企業が育休の取得を拒否した場合は法律違反となるので要注意です。

●企業は、育児休業を取得しやすい雇用環境を整備することが義務に
残念ながら、「制度をつくって終わり」という企業も多数。それでは意味がないので、男性が育休を取りやすい環境整備をすることが企業の役割です。具体的には、研修の実施や相談窓口の設置、事例の収集・提供、会社としての方針の周知などが定められています。

●契約社員やアルバイト、パートタイマーなど、有期雇用労働者の育休取得条件が緩和
もともと、育休取得には「勤続1年以上」という条件がありましたが、今回撤廃されました。なお「育休取得申し出の時点で、子どもが1歳6ヶ月に達する日までに、労働契約期間が満了することが明らかでないこと」という取得条件もあり、こちらはそのまま残されています。

(※)出典:2021年7月厚生労働省発表「令和2年度雇用均等基本調査」(※1)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r02/07.pdf

各社の施策を紹介。男性の育休取得率100%も

今回の法改正により、具体的に企業や働き手はどう変わるのでしょうか? すでに成果を出している“成功事例”6社の取り組みをご紹介します。

●積水ハウス(大阪府・総合住宅メーカー)

グループ全体で男性育休取得率100%を達成。最初の1ヶ月は有給扱いで、取得期間を「子どもが3歳になる日の前日までに、最低1ヶ月(最大4回まで分割可能)」と定めて推進しています。また、男性育休の実態を探るアンケート調査「男性育休白書」を発表したり、9月19日を「育休を考える日」に制定するなどの施策を推進。さらに、夫婦で育休取得時期や家事育児の分担について話し合い計画を立てる「家族ミーティングシート」(※2)を用意し、男性育休の普及に注力しています。なお、ミーティングシートのPDFは一般公開されており、同社HPでダウンロードが可能です。

(※)出典:積水ハウス「家族ミーティングシート」(※2)
https://www.sekisuihouse.co.jp/ikukyu/library/pdf/meeting-sheet.pdf

●大成建設(東京都・建設)

社員の8割以上が男性(2021年7月時点)という大成建設。3年連続で男性育休取得率100%を達成しており、男性の育休平均取得日数は14日以上となっています。(※3)さらに、通常の育休制度に加え、「子どもが2歳未満の子を養育するために、5日間の休暇を取得可能(有給・3回まで分割して取得可)」など独自の制度も充実しています。

(※)出典:大成建設HP(※3)
https://www.taisei.co.jp/about_us/diversity_and_inclusion/data/

●ピジョン(東京都・ベビー用品メーカー)

2016年以降、「最低1ヶ月以上の男性育休取得率100%」をキープ。取得率、期間ともに高い実績を残しています。さらに2022年3月には、育児中の社員から生の声を吸い上げ、それを生かして制度をブラッシュアップ。また全国の既婚男性を対象に、育休にまつわる調査も実施。「“未来のパパ”の約半数が 1 ヶ月以上の育休取得を希望するも、実際には約 8 割が 1 週間以下の短期間という現実」(※4)などの実態が明らかになりました。

(※)出典:ピジョン株式会社の育休に対する意識調査(※4)

https://www.pigeon.co.jp/news/files/pdf/20220309.pdf

●技研製作所(高知県・建設機械メーカー)

2018年度「男性育休取得率0%」という事実が判明し、大きな課題に。それを受け、社員の男性育休取得に際した不安を調査し、育児休業給付金のシミュレーションツールを開発するなど具体的な施策を進めました。その結果、2021年度には男性育休取得率100%を達成。そのうち、3ヶ月以上の長期取得者は61.5%にのぼります。

●江崎グリコ(大阪府・食品メーカー)

2020年1月から「育児に専念する休暇を、有給として1ヶ月間取得する」ことを必須化。「Co育てMonth(Co育て出産時休暇)」制度(※5)を開始しました。もともと2019年4月から5日間の育休取得が義務になっていたものの、5日間では本格的な育児参加ができないという声があり、制度を大幅にブラッシュアップした形です。2017年度に4%だった男性社員の取得率は、現在100%に。
また、ベビー用の紙おむつ「ムーニー」などを製造するユニ・チャームと協働で、企業向け両親学級 「みんなの育休研修」の無償提供を開始。「男性育休って、なぜ必要?」「育休中、育児ってどうしたらいいの?」といったテーマで、「授乳」「睡眠」「排泄」などの方法について、栄養士や子育てアドバイザーなどを交えて紹介しています。

(※)出典:江崎グリコ「Co育てMonth」(※5)
https://www.glico.com/jp/health/contents/comonth/

●サカタ製作所(新潟県・建築金具メーカー)

1951年創業、従業員156人という老舗メーカー・サカタ製作所。業界柄、男性の多い職場でありながら、2018年に男性育休取得率100%を達成し、現在まで継続しています。さらに平均取得日数も伸びており、2018年の18.2日から、2021年には46.7日に。施策のベースになったのは、社長が直々に発した「残業ゼロ宣言」。これに基づき、業務の棚卸しや属人化を防ぐペア制度などを導入し、働き方全体を見直した結果、残業もほぼゼロに削減されました。

2022年10月より「男性版産休」開始

育休取得の拡大に続き、10月には「男性版産休(産後パパ育休、出生時育児休業)」がスタートします。子どもの出生後8週間以内に、4週間までの “産休”を取れるという制度。主なポイントはこちらの5つです。

  • 男性育休とは別に、従業員に与えられる権利
  • 取得日の2週間前までに申請すればOK
  • 希望すれば「2分割」で取得できる
  • 休業中の就業も可能(上限があるなど一部条件付き)
  • 休業中の給与は手取りで「休業前の約8割」ほど

また、同じタイミングで育休の取り方についても以下2つの改正が入ります。

  • 子どもが1歳になった後に育休を延長する場合の開始日を、柔軟に決められるように
  • 夫婦それぞれが、育休を2分割で育休取得できるように

ぐっと使い勝手のいい育休制度になり、夫婦が育休を途中交代することが可能に。夫婦の事情に合わせて、計画を立てやすくなると期待されています。
法律による育休取得の後押しは、来年以降も続きます。2023年4月1日には、従業員1000人以上の企業に対して、男性の育休取得状況などを最低年1回公表することが義務づけられます。

ネット上で聞こえた、みんなの本音

一連の法改正と「男性育休を取得しよう!」という潮流を受けて、インターネット上ではこんな声も。制度が整ったことは進歩と言えますが、実際にはさまざまな不安もあるようです。

  • 上司と同僚、みんなに理解してもらうのは正直難しい。引継ぎも一苦労
  • 育休を取れても、期間が短すぎたら「なんちゃって産休」になりかねない
  • 経営陣がトップダウンで推進してくれれば、申し出をしやすくなりそう
  • 男性育休の制度はあっても、職場の雰囲気によって取得しづらいケースが多い
  • 制度があっても「使いたい!」「使います!」という人がいないと状況は変わらない
  • 法改正によって、制度を利用しやすい環境ができるといい

上記の不安にもあるように、「法律や制度ができること」と「育休が取りやすいかどうか」は別問題。企業としては法改正を遵守するのはもちろんのこと、単に「育休を取ってね」と伝えるだけではなく、職場での理解促進や引継ぎの工夫など「休みやすい環境づくり」をどう実現していくかが本質的なテーマとなっていきそうです。

「男性育休」は1つのきっかけとして、業務の棚卸しや効率化、組織の仕組みづくりなど職場全体の環境が見直され、あらゆる働き手がより働きやすい世の中へ変わっていくことが期待されます。

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さくら もえMOE SAKURA

出版社の広告ディレクターとして働きながら、パラレルキャリアとしてWeb媒体の編集・記事のライティングを手掛ける。主なテーマは「働き方、キャリア、ライフスタイル、ジェンダー」。趣味はJリーグ観戦と美術館めぐり。仙台の街と人、「男はつらいよ」シリーズが大好き。ずんだもちときりたんぽをこよなく愛する。

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