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取得者に聞いた「介護休業」のリアル。リモートワークの利点と落とし穴

2024/03/12 Tuesday
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未来の働き方を論じる際、働きやすさと同時に「休みやすさ」にも注目が集まる昨今。つい産休や育休がフォーカスされがちですが、仕事における休業はその2つだけではありません。

今回は、40日間の介護休業を取得した株式会社キャスターのSさんに、介護休業のリアルとそこから見えた気づきについてお話をうかがいました。

制度はあっても気づきづらい「介護休業」という選択

――まずは、介護休暇を取得された背景から教えていただけますか?

父が転んで怪我をし、一時期、寝たきりの状態になったことがきっかけでした。

80代と高齢なこともあって、もともと認知症は始まっていて、介護認定は受けている状態でした。ただ、物忘れが激しい程度で日常生活に支障はなかったので、実家で母と暮らしていました。

ところが、ある日散歩に出かけた父が転んで骨にヒビが入ってしまい、一時期寝たきりの状態になったことから、認知症の症状が悪化してしまったんです。認知症は、突然環境が変わると一気に進んでしまうことがあるそうで、まさに父がそうでした。

ひとまず、手続き関連から、介護用に新しくベッドや器具を購入したり、ヘルパーさんにもお願いする体制を整えたり…必要な準備はなんとか進めましたが、私も実家への行き来が増えている状況で、なおかつ母が疲弊している姿を見て、介護休業を取ることにしました。

――介護休業の取得はスムーズに進みましたか?

最初は、介護休業という選択肢自体を忘れていたというか、発想にありませんでした。調べてみて初めて 、「対象家族1人につき3回まで、通算93日まで休業できる」ということも知りました。

父の状態がこの先どうなるか分からず、何日取得すべきなのか判断が難しかったです。取得後に延長や短縮もできるということだったので、一旦は上限の半分弱の40日を取ることにしました。

そこからは、何も分からないまま進めていったというのが正直なところです。

――たしかに、私も介護休業について全然知りませんでした。介護休暇(対象家族が1人の場合、年5日まで)との違いも今調べて明確になりました。なかなか日常で調べるタイミングがないですよね。

本当にそうですね。自分が取ることになって初めていろいろ調べたり、会社の人事のメンバーから教えてもらったりしました。会社側でもさまざまな申請手続きが必要だと思うのですが、人事部の迅速な対応には大変助かりました。上司からも「気にせず休んで」と言ってもらえて安心できました。

――仕事を休むに当たり、何か不安なことはありましたか?

社会人になってから40日続けて休むのは初めての経験でしたが、やらなければならないことや考えなければならないことがたくさんあったので、休む前には不安を感じる余裕すらなかったかもしれません。引き継ぎも問題なくスムーズにできました。

ただ、実際に休みに入ると、会社で進めていたプロジェクトが「どうなってるかな」と気になることはありましたね。

課題は「情報不足」。産休育休と介護休業に大きな乖離

――実際に介護を経験されて、どんなことが大変でしたか?

父本人ももちろん大変だと思いますが、支えている家族の共倒れを一番危惧していました。

物理的な介護に関してはヘルパーさんとも分担できていましたが、父の機嫌が悪かったり、認知症の症状が出ているなか介護するのはメンタルの負担も大きいです。特に、母は責任感から無理をしてしまうタイプでもあったのが心配で、そういう家族のケアに時間を使っていたように思います。

それと同時に、「これからは自分が面倒を見る立場になるんだな」と、親と子の関係性が逆転していくのを実感しました。

――現行の制度や社会に対して、「もっとこうなれば助かる」と思うことはありましたか?

介護休業に関する情報不足を強く感じました。

たとえば、産休や育休に関しては、特に習った覚えもないのに何となく知っている情報が多いですよね。個人差はあるとはいえ、だいたいどのくらいの期間休んで、育休中は給与の7割弱の給付金がもらえて、どんなことが大変そうか。未経験の私にも、そういう情報がいろいろなところから自然と耳に入ってきます。そして、もし知らなくても、妊娠が発覚してから調べたり準備をする時間がありますよね。

でも、介護休業に関する情報はほとんど耳にする機会がありません。「介護は突然やってくる」と世間でもよく言われますが、タイミングも予測できませんし、すでにタイミングが来ていても実は気づけていない期間が私も長かったように思います。その上で事前情報もないので、てんやわんやしながらも進めるしかありませんでした。

日頃から少しでも情報を得られて、意識したり心の準備ができていると違ったのかなと思います。

――私も介護休業の期間が通算93日というのをさっき知りましたし、たしかに事前に知っている情報が全然ないですね。他に国からの手当ては何かあるのでしょうか?

私も当時調べて知ったのですが、育休と同じように介護休業給付金が給与の67%相当支給されます。ただ、いくつか要件を満たす必要があって、私の場合は無事に67%支給されました。

介護休業を取ったこと自体は100%良かったと思っていますが、情報と判断材料がなかったため、半分弱の40日を取ったことが最適だったのかは今も分かりません。今後また今よりも症状が悪くなるかもしれないなか、取得した後も疑問は残ります。

適切な取得時期や日数の判断材料、93日を消化し終わった後のサポートは何かあるのかなど、情報や事例が得やすくなると、もっと安心して休めるようになると感じます。

――情報が入ってこないのは、普段の会話に上がりづらいことも理由にありますかね。

そうですね。介護は気を遣ってしまうテーマではありますよね。出産や育児は、大変ではありつつ、基本的には子どもが成長していく前向きな話題なのに対して、介護は状況が右肩上がりになっていくとは言えない話題なので、どこまで聞いてよいのか気にする人も多いと思います。

そして、育児と比べると、介護は個人差がかなり大きいですよね。若くして介護が必要になるケースもあれば、90代でもピンピンしている方もいますし。介護が必要な状況になっても、施設で生活する選択をした場合には介護休業は必要ない場合もあるでしょうし、要介護者や支える家族の状況と選択肢によって介護のあり方が異なり、共通の話題として扱いにくいのも理由かもしれません。

リモートワークと介護。相性が良いからこその注意点も

――Sさんが働く株式会社キャスターはフルリモートワーク企業ですが、世間ではリモートワークを語る際に「介護しながら働ける」と言われることもあります。経験者としては、どのように感じますか?

大前提として、リモートワークと介護の相性の良さは強く感じています。ただ、良い部分と注意すべき部分の両方があると感じました。

実際に、リモートワークによって助けられていることは多いです。たとえば通院の送り迎えなど、介護が必要になる前から、親が高齢になってきた時点でリモートワークやフレックスタイム制度があったからこそ両立してこられたことはたくさんあります。そして、復職後の今も、引き続き通院や実家との行き来において助かっている部分です。

世間では、復職後に両立できず介護離職をするという話も聞くので、リモートワークとの掛け合わせで解決できることは増えるのではないかと思います。

ただ、逆に注意すべきだと思ったのは、「リモートワークだから介護休業を取らなくても両立できるのではないか」と無理をしてしまう可能性があることです。私も、父が寝たきりの状態になっていても一瞬「休まなくてもいけるんじゃないか」という考えが頭をよぎりました。

――なるほど。リモートワークと介護の相性がいいからこそ、「休む」という決断がしづらくなる部分はあるのかもしれませんね。

そうなんです。でも、実際に取得した今は、リモートワークを活用しながらも、無理に両立しようとしないことが大事だと思います。

――介護は誰もがいつかは直面しますが、私自身、どこか考えないようにしているところがあると思います。これから介護休業を取る可能性のある人に、何かメッセージをいただけますか?

介護休業は半分、「自分のために休む」と思うくらいでいいかもしれません。

介護においては、本人と同じくらい周りが共倒れになるケースも問題視されています。本人の症状や必要な介助はある程度見えてきますが、「周りの人がどんな負担を抱えているか」というのは表に見えづらい部分です。

だからこそ、100%の時間を介護そのものだけに費やすのは危険かもしれません。共倒れしないように「ゆとりを持つための休業」と捉えてもいいのではないかと思います。

なかなか難しいことではありますが、限界を迎えてから介護休業を取るのではなく、意識して早めに取れる体制や風潮が生まれるといいですね。

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