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マザーハウスに聞く「成果の最大化」の条件と「採用・評価」の考え方

2023/06/01 Thursday
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経営者やマネジメント層なら、メンバーに求めたい「パフォーマンスの最大化」や「自走力」。
強い組織を作るためには、どのような条件が必要なのでしょうか。また、採用や評価はどのような考え方で進めるべきなのでしょうか。

本記事は、2023年4月11日に『Alternative Work』が主催したイベント(登壇:株式会社マザーハウス代表取締役副社長・山崎大祐氏、株式会社キャスター取締役CRO・石倉秀明)をもとに、対談記事にまとめました。

前編はこちら
デジタルシフトに成功したマザーハウスが大切にしていること

山崎 大祐氏
2003年慶應義塾大学総合政策学部卒業、 卒業後にゴールドマン・サックス証券にエコノミストとして入社し、日本及びアジア経済を担当。07年3月に退職し、ファッションブランドを展開する株式会社マザーハウスを同社代表・山口絵理子と共に創業、08年6月に同社副社長に就任。19年3月から、同社代表取締役副社長に。「Warm Heart, Cool Head(熱い情熱と冷静な思考)」を持った経営者・起業家を育てる私塾・思いをカタチにする経営ゼミの主宰やブラインドサッカー協会の理事にも就任。

石倉秀明
約800名がフルリモートワークする株式会社キャスター取締役CRO(Chief Remote work Officer)。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。妻と7歳の娘と犬と猫と暮らしている。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。

「パフォーマンスの最大化」「自走する組織」の条件とは

石倉:マザーハウスさんは、お客さんとの接点をすごく大事にしながら、メンバーみんなで作りあげていく文化がありますね。メンバーのパフォーマンスを最大化するために、意識していることがあったら教えてください。

山崎:マザーハウスでは、1on1や評価面談の時に「その人を主語にする時間を作ってほしい」ということをマネジメント側に必ず伝えています。

多くの会社の1on1や評価面談では、「仕事」が主語になってしまってるんですよね。「この仕事ができてる/できてない」とか「この仕事のパフォーマンスを上げるためには、どんなことができた方がいいと思う?」とか。仕事の上でのゴールがあって、それに向かってある意味で献身的に働くみたいなのが一般的な仕事の仕方だと思うんですが…マザーハウスはそうではなく、「自分は何をやりたいか」「それに対してどう成長していきたいか」「どんなキャリアを描きたいか」「今すべきことは何か、何が足りないか」を一緒に考える時間を作るようにしています。

石倉:なるほど。自分自身を主語にして、自分ごと化するということですね。

山崎:そうですね。パフォーマンスを最大化するために必要なことは3つあると思っていて、まずは「モチベーション」。2つ目が「スキルの棚卸し」、3つ目が「情報共有されている環境」です。これはオンラインでもリアルでも同じかなと思いますね。

フルリモート経営のキャスターさんでは、どんなことを大事にされていますか?

石倉:そうですね。経営陣やマネジメント層は「自走できるかどうか」をメンバーに求めることが多いと思いますが、メンバーが自走するためには4つの条件があるといつも話しています。それは、「考えるために必要な情報があること」「権限があること、動いていい範囲が明確であること」「失敗したときに咎められないこと」「その人自身に考えて動ける力があること」。前の3つはほぼ組織側の問題なので、結局メンバーが自走できるかどうかは組織次第なんだろうなと。

キャスターでは、あらゆる仕事においてチャットのオープンチャンネル上でコミュニケーションを取ることが多いんですが、リアルオフィスのデスクの島でメンバーと喋って情報共有しているのと近いと思います。それがテキストで残っているので、後からでも情報が取れる環境が自然と作られるというのがありますね。テキストコミュニケーションをサボらずやり続けた結果、こういう文化が出来上がってきました。

山崎:マザーハウスも、情報共有はリモートワークが進んでかなり効率よくできるようになりました。

マザーハウスは国内だけでも45店舗展開しているので、つまり45拠点あるのと同じこと。会議ではリモートで参加している人が1人以上いることがほとんどなので、大きな会議から小さなミーティングまで全て録画・アーカイブ化されて、「情報が取れない」ということがなくなりましたね。また、経営陣が出ている会議が見えるようになったことにも、大きな価値があると思います。

石倉:たしかにそうですね。店舗や拠点を複数展開している会社は、実際にはリモートワークなのと変わらない状態だなと思いますね。

僕は前職では毎日出社していましたが、自分と違うフロアにいるメンバーのことはほとんど知らなかったですし(笑)。出社していても、普段意外とコミュニケーションはメールでやりとりしてたし。実は本質的には、リモートワークとあまり変わらない環境だったのかもしれません。

リアルの価値の再認識。「自分の身をどこに置くか」考えよう

山崎:コロナが明けた今、社内のみんなには「自分の身をどこの現場に置くか考えた方がいい」とよく伝えています。

僕は先日、インドネシアのスラウェシ島にカカオを取りに行って、飛行機で10時間、車で6時間、そこから歩いて3時間みたいな山の中に行ったんですけど、そこでもリモートワークできたんです。山の中からYouTube配信したんですよ(笑)。

リアルじゃないとできない仕事があるからこそ、自分が今どこにいるべきなのか──それはマネジメントサイドにも言ってますね。リモートワークって、「家にいる(在宅勤務)」って前提で語っている人があまりに多くて。でも、そうではないんですよね。マネジメントって逆に現場を回らなきゃいけないので、リモートワークによって現場に行きやすくなったと感じます。

石倉:コロナ禍で「リモートワーク=家で働く」というイメージが定着しちゃいましたよね。マネジメント側や意思決定を任されるポジションに近い人ほど、ある意味スマホがあればできる仕事が増えますし、どこにいても仕事ができるようになるのはそういう人たちですよね。だから、現場に行きやすくなったというのはおっしゃる通りだと思います。

それから、当たり前ですが、会社で働く理由って人それぞれじゃないですか。会社への思いとか、仕事にどれくらい関与したいかとかは人それぞれだし、タイミングによっても変わります。それを会社側が無理やりコントロールしようとしないのが大事だと思っています。「一体感」という名のもとに、みんなが同じ方向を向いて、同じ温度感でなければならないってことを前提にすることが多い気がするんですが…それって、山崎さんがおっしゃる「その人を主語」にした時にその人を見てないことになるなと思いますね。

評価は「上司は部下のことが見えていない」前提で

石倉:マザーハウスさんでは、採用についてはどう考えていますか?

山崎:パフォーマンスを最大化する上でも「採用」と「評価」は大前提だと考えて、僕自身かなりコミットしています。採用で重視しているのは「人生において、働く意味を持っているか」「会社の一員として、社会へどんな価値を生み出せるか」「コミュニティ形成において、どんなことができる人なのか」などを見ています。

キャスターさんはどうですか?

石倉:採用は、コアとなる会社全体の方向性とは別に、各事業部の方針も重視しています。事業部ごとにメンバーのタイプも違うし、それぞれのカルチャーがあるので、採用方針の揺らぎはある程度許容しています。

評価についてはどうでしょう?

山崎:評価システムこそ、マネジメントからのメッセージ。まずは、これを理解するのが大事ですね。マザーハウスでは、評価システムが半期ごとに変わっていく感じなんで、ずっとアップデートされていきます。

働き方が効率的になったり、リモートでみんなの場所がバラバラになると、部下の様子って見えづらくなる。だから、「上司は部下のことが見えていない」ことが前提の評価システムにしていて、いろんな工夫をしています。

たとえば、マザーハウスでは「全社貢献」といって、メンバーが既存の枠組みの中では評価されないことを自由に書ける機会を設けています。いつも、500個くらいあがってくるんですよ。「実は自分は見えていないところでこんなことをやっています」というのをメンバーが上司にプレゼンする機会は結構いろいろあります。部下の様子が見えない前提のときに、部下が自分が貢献したことを伝えられる時間をどういうふうに与えられるかが大事だと思います。

石倉:500個もあがってくるのはすごいですね。

キャスターの場合、「人が人を正しく評価することはできない」という前提に立っています。だからこそ、評価軸はシンプルで「自分の持ち場を守ったか?」の1点。明確な軸をたった1つ置くことで、評価者の裁量が入りにくい仕組みにしています。

そのためにも、ジョブスクリプションはできるだけ明確化するようにしています。リモートワークをずっとやってきて思うのは、実はリモートワークと日本的なピラミッド型組織と相性がいいはずなんじゃないかということ。各々の役割さえきちっと決まっていれば、実は相性がいいだろうと思いますね。

山崎:なるほど。マザーハウスの場合は多能工的なところがあって。たとえば、お店の店長の役割は結構たくさんあるんですよね。また、チャレンジングに働きたい人もいれば、コツコツ積み重ねたい人もいて、求める働き方は人それぞれです。マザーハウスは7~8割が女性の会社で、時短勤務のメンバーもたくさんいます。役割も働き方もさまざまなので、単純に労働時間だけで評価するのは難しいんですよね。コツコツやらなきゃいけない仕事もあるし、チャレンジングで失敗確率も高いけど当たると大きいよねみたいな仕事もあるわけで、ダブルスタンダードで両方を評価する仕組みを取り入れたりしていますね。

石倉:たしかに、事業の種類やビジネスモデルの違いなど、会社によってマッチする評価方法の違いはありそうですね。

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※本記事は、 2023年4月11日に『Alternative Work』が主催したイベントの内容を編集して作成しています。
『Alternative Work』では、定期的にイベントを開催しています。興味のある方は、ぜひお申し込みください。
https://www.alternativework.jp/event/

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さくら もえMOE SAKURA

出版社の広告ディレクターとして働きながら、パラレルキャリアとしてWeb媒体の編集・記事のライティングを手掛ける。主なテーマは「働き方、キャリア、ライフスタイル、ジェンダー」。趣味はJリーグ観戦と美術館めぐり。仙台の街と人、「男はつらいよ」シリーズが大好き。ずんだもちときりたんぽをこよなく愛する。

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