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「静かな退職=心の退職」半数以上が実践!? 起きるきっかけと対処法

2025/01/28 Tuesday
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会社に勤めていながら、仕事に対するモチベーションをほぼ失い、心理的には会社を去っている状態を指す「静かな退職」。言葉は知らずとも、同じ状況に陥っている人がいる組織は少なくないようです。静かな退職が実践されてしまう理由や対処法などについて考えます。

「静かな退職」とは?日本では約半数が「静かな退職をしている」と回答

「静かな退職」という言葉をご存じでしょうか。退職自体はしていないけれど、自分に義務づけられた必要最低限の業務だけを淡々と行うーーそんな働き方が「静かな退職」と呼ばれています。

会社が掲げるミッション実現に向けて熱心に取り組むことも、職場に積極的に関わることもなく、かといって自己実現ややりがい、出世を求めることもない、ある意味で割り切った考え方といえます。

静かな退職という概念の生みの親は、アメリカのキャリアコーチであるブライアン・クリーリー氏。2022年に「Quiet Quitting(和訳=静かな退職)」を説明する動画を公開し、広く知られる言葉になりました。

発端となったアメリカでは、静かな退職の概念は日本以上に知られています。実際、欧米では、コロナ禍を経て「静かな退職」が社会現象にまでなりました。

アメリカで生まれ、世界中に広まった静かな退職の概念は、日本にも波及しています。マイナビの調査(※1)によれば、20~59歳の正社員のうち48.2%が「静かな退職をしている」と感じているというデータもあります。

半数弱という数字から、静かな退職は、一部の特殊な人だけではなく、多くのビジネスパーソンが自分ごと化している概念だとわかります。なお「できることなら働きたくない」と感じている人は56.9%おり、仕事に対するモチベーションの低さが顕在化してきているようです。

また、別の調査では、静かな退職の実践者の年齢別割合は、20〜34歳が30.7%、35〜54歳が50.9%となっています(※2)。オンとオフの境界線を明確に引く若手世代でも一定の割合で発生しているようです。キャリアの長さにかかわらず、各世代で起こっていることがわかります。

※1:マイナビ「正社員のワークライフ・インテグレーション調査2024年版(2023年実績)
※2:Great Place To Work® Institute Japan「静かな退職に関する調査2024年

評価されないことへの不満、ハッスルカルチャーへの対抗か

すでに、半数近い人が静かな退職に至っているという事実は、経営者にとって衝撃的かもしれません。静かな退職が起きてしまう理由はなんなのでしょうか。

調査(※2)によると、静かな退職をするようになったきっかけは「仕事よりプライベートを優先したいと思うようになったから」(38.2%)、「努力しても報われない(正当に評価されない・給与に反映されない)から」(27.3%)が大きな割合を占めました。

プライベートを優先する考え方は、長時間労働やハッスルカルチャーを是正する世論が強まってきたことも影響しているかもしれません。「ハッスルカルチャー」とは静かな退職の対義語で、毎日高いモチベーションを持って猛烈に働き、高いパフォーマンスを出そうとするスタイルを指します。

もちろん、ハッスルカルチャーは自己成長や出世など得られるメリットもあるかもしれませんが、この働き方を続けるとプライベートが犠牲になったり、燃え尽き症候群に陥ったり、心身の健康を害したりするリスクもあります。

働き方やライフスタイルが多様化し、心身ともに満たされた状態を表す「ウェルビーイング」が推進されたこともあり、毎日猛烈に働いて職場で出世することは必ずしも「成功」と捉えられなくなっている側面はあるでしょう。

また、「努力しても報われない(正当に評価されない・給与に反映されない)から」という回答にもあるように、評価制度やインセンティブへの不満も静かな退職を引き起こしているきっかけになっているようです。

仕事で成果を出しても、評価や給与に反映されないのであれば、当然モチベーションは低下します。また、ビジネス競争の激化や世の中の変化から、以前と同じ仕事でも責任やプレッシャーが増しているケースもあり、同じ給与ではモチベーションを保てなくなっている可能性もあります。

加えて、給与が上がらなかったり評価されなかったりする上司や先輩を見て、「この会社で努力をしても無駄だ」と感じているとも考えられます。自分のリソースを多く割いてまで会社や職場のために頑張ろうというモチベーションを見出せない、そんな人が静かな退職を選んでしまうのかもしれません。

「静かな退職者」実践者が組織に与えるネガティブな影響

静かな退職を実践する人がいると、組織全体にどんな影響が生まれるのでしょうか。主な影響は3つあります。

1つは、チームや部署全体の士気が下がることです。静かな退職とはつまり、自分の可能性に蓋をすることでもあるので、生産性が下がったり、チーム内のコミュニケーションが減ったりします。そうした態度が周りに伝わり、モチベーションの低さが伝播してしまうと、他のメンバーの熱量まで下がってしまいかねません。

2つ目は、企業として成長しづらくなることです。静かな退職をしていれば、仕事の中で新しい挑戦をするモチベーションもなくなります。企業としてはその分ビジネスチャンスを逃したり、顧客の信頼を失ったりして、事業の伸びが止まってしまうリスクが生まれます。

3つ目は、組織力が弱まることです。自分に割り振られた仕事だけを淡々とこなすメンバーがいれば、担当の枠を超えて助け合ったりナレッジシェアをしたりする文化が薄まってしまいます。

どんな組織においても、メンバーが生き生きと働くためには、互いに尊敬し合い、助け合える関係性づくりが不可欠。静かな退職は、この観点からもネガティブな影響をもたらします。

経営者やマネージャーができる対処法

メンバーの静かな退職を防ぐために、経営者やマネージャーはどんな工夫ができるでしょうか。

まず1つは、入社前後のギャップを防ぐことです。業務内容や待遇、職場の雰囲気などについて、入社前から丁寧に説明し、ギャップが生じないように工夫します。これは主に若手社員に対して有効といえるでしょう。

また、中堅社員やベテランに対しても、コミュニケーションを密に行うことも必要不可欠です。上述のとおり、メンバーが静かな退職に至る理由としては「仕事の成果を正しく評価されない」「頑張っても報われないと感じる」などがあります。

声かけや1on1ミーティングなど対話を意識的に行ったり、エンゲージメント調査をたびたび行うことで、メンバーの不満や心境の変化、職場とのズレを早くに察知し、埋めることができます。

静かな退職の実践者に「勤め先の環境でどのような変化があったら働き方が変わると思うか」と聞いたところ、40.9%が「勤め先の環境で変化があっても働き方は変わらない」と回答しています(※2)。

つまり、すでに静かな退職を決意し、実践しているメンバーに対して後追いでカバーしようとしても、もはや手遅れということです。静かな退職に至る前に職場環境を整え、丁寧にコミュニケーションを取ることが重要です。

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さくら もえMOE SAKURA

出版社の広告ディレクターとして働きながら、パラレルキャリアとしてWeb媒体の編集・記事のライティングを手掛ける。主なテーマは「働き方、キャリア、ライフスタイル、ジェンダー」。趣味はJリーグ観戦と美術館めぐり。仙台の街と人、「男はつらいよ」シリーズが大好き。ずんだもちときりたんぽをこよなく愛する。

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