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定量で考える「ウェルビーイングな組織」。人材構成と文化醸成のヒント

2023/07/27 Thursday
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2023年3月期決算から、上場企業では人的資本の情報開示が義務付けられるようになり、従業員のウェルビーイングやエンゲージメント向上など、人的資本経営の重要性が再認識されている昨今。

Z世代を中心とした若い世代では、金銭的報酬だけではなく、幸福度を優先した企業選びをするようになってきたとも言われていますが、人はどのように「幸せ」を感じているのでしょうか。そして、ウェルビーイングな組織設計に向けてどんなことが考えられるのでしょうか。

「幸せ」を定量的にとらえ、ウェルビーイングな組織をつくるうえでのポイントを、一般社団法人giv代表、Tech Japan株式会社代表の西山直隆さんに伺いました。

「幸せ」は定量的に説明できる?関係する3つの「脳内ホルモン」とは

そもそも、「幸せ」は人によって感じ方が違いますし、非常に抽象度の高い言葉に感じる人が多いでしょう。

以前は、幸せに関する研究は心理学的・宗教的・哲学的なアプローチが中心で、たしかに抽象度が高いものでした。しかし、科学の進歩によって、現在では脳科学や精神医学、理系工学系などさまざまなアプローチで分析され、幸せに関するあらゆることが定量的に明らかになってきています。得られる情報やデータの質が変わり、その大量のデータをアルゴリズムを用いて解析できるようになったのです。

では、「幸せ」は定量的にはどのように説明することができるでしょうか。

私たち人間の感情は、脳で判断されています。脳から出る「脳内物質(ホルモン)」が感情をコントロールしているという話を聞いたことがある方もいるかもしれません。正確に言うと、「脳内ホルモン」というのは造語で、体の各部位にある内分泌腺から出され、血液を媒介して体の働きを調整する「ホルモン」と、脳の中のシナプスから分泌され、神経細胞に対して直接働きかける「神経伝達物質」の2つに分かれるのですが、本記事では便宜的に2つをまとめて「脳内ホルモン」という言葉を使わせていただきます。

今回のテーマでもある「幸せ」と特に関連が高い脳内ホルモンは3種類あります。心と体の健康がプラスに作用する「セロトニン」、人とのつながりが作用する「オキシトシン」、お金や成功が作用する「ドーパミン」の3つです。

そして、これらの脳内ホルモンは下記の行動によって向上させることができると言われています。

セロトニン:エクササイズ、日光浴、マッサージ、よく食べることで、セロトニンにプラスの影響を与える。気分を高め、睡眠を調節するのに役立つ。

オキシトシン:他の人と交流するときに生成され、「愛のホルモン」と呼ばれる。愛情を示す、人とつながる、人と共有することで、オキシトシンにプラスの影響を与える。

ドーパミン:よく食べ、よく眠り、音楽を聴くことで、ドーパミンにプラスの影響を与える。脳の報酬系に関与し、喜びを感じるのを助けている。

3つの中でも、オキシトシンは“こころのウェルビーイング”に直結すると言われています。ウェルビーイングを実現するには、健康やつながりで幸せの土台を固めることが大切と言えます。

「ギブ」できる人を増やし、ウェルビーイングな組織へ

2023年3月期決算から上場企業では人的資本の情報開示が義務付けられ、まさに今、従業員のウェルビーイングやエンゲージメント向上など、人的資本経営の重要性が再認識されています。

幸せやウェルビーイングを定量的に捉えたときに、ウェルビーイングな組織づくりにおいて意識すべきことはどんなことでしょうか?

ハーバード大学による「人の幸福と健康の要因」の研究では、「幸せと健康をもたらすのは人とのつながりであり、良い人間関係を築いているかによる」ことが明らかになっています。

つまり、私欲のためではなく、他人を思いやり行動することで人生の目的や意味を見出し、幸せを感じることができるということです。

「他人を思いやり行動する」というシンプルな理論を組織に実装するためにまず重要なのは、「人材構成」です。

アダム・グラントの著書『GIVE&TAKE』では、人を「与えることを厭わないギバー」「得ることを好むテイカー」「ギブとテイクのバランスを取るマッチャー」の3タイプに分類しています。「他人を思いやり行動する」組織にしていくためには、「ギブ」できる従業員を増やしていく必要がありますが、同時に「テイカー」を排除する意識も重要です。

というのも、ギバーはさらに2つのタイプに分類され、相手により適切なギブを行う「他者思考型」と、リクエストがあれば誰にでもギブを行う「自己犠牲型」がいると考えられています。後者はテイカーに搾取されることが多いため、誰もが安心してギブができる環境をつくるには、採用などの入り口でテイカーを排除することが大切です。

例えば、採用面接で過去の経験や成果の話をしている際に、自分の話だけをする人は要注意かもしれません。逆に、どのように仲間とうまく連携して乗り越えてきたか、また周囲への感謝が感じられる話し方が見受けられる人は、ウェルビーイングな人材構成としてフィットする可能性が高いと考えられます。

“つながり”から、頼り・頼られる文化を醸成する

また、私は「文化の醸成」もウェルビーイングな組織づくりにおいて重要なポイントだと考えています。

ここで言う「文化の醸成」とは、ギバーが燃え尽きないように、「誰もが気軽に人に頼ることができる、そして頼られる」文化を醸成することです。

ギブする側が幸せを感じ、またギブされた側にも健全な負債感が溜まり、他の誰かにギブをまた贈っていく──「恩送り」の循環が回り出せば、自然と良い人間関係も生まれていきます。

頼り・頼られやすい雰囲気をつくるために、まずは従業員同士のお互いの好きなこと・得意なことを共有し合う簡易的なワークショップをするのもおすすめです。具体的には、2人1組でインタビューを行い、異なるペアでそれを繰り返し、他己紹介で共有します。

例えば、肩書きと仕事の印象から「法務部の怖い顔をしているおじさん」のようなイメージを持っていたところに、「キャンプが好きな火おこし名人」という仕事から少し離れた側面を知ることができると、がらっと印象は変わり、一人の人間として親しみやすくなるでしょう。

お互いの人柄を知り、つながりを増やすことで、コミュニケーションが活性化し、相手へのギブが生まれやすくなります。

一見すると、業務や売上には直結しないと思われるかもしれません。でも、私はこのような血の通ったコミュニケーションこそが、ウェルビーイングな組織づくりの1歩になると考えています。

コミュニケーションを活性化させる仕組みやありがとうが交差する文化。非効率的に見えるようで、従業員の働きがい、創造性や生産性を向上させる可能性を秘めているかもしれません。

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西山直隆NAOTAKA NISHIYAMA

一般社団法人giv代表、Tech Japan(株)代表。米国公認会計士の資格を取得後、デロイトトーマツグループにてベンチャー企業の成長支援に従事。“こころの豊かさが得られる社会”の実現に向けgivを設立。同時にグローバル人材事業を展開するTech Japanの代表取締役も務める。 著書『こころのウェルビーイングのためにいますぐ、できること』、Audible『ゆかいな知性』出演。