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再注目されるコーチング。多様化の時代の“マネジメントの在り方”とは

2022/11/15 Tuesday
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多くの人が一度は耳にしたことのある「コーチング」という言葉。しかし、そのイメージや解釈は人によってさまざまです。今、なぜ「コーチング」が再注目されているのか、コーチングサービスを提供する株式会社mento代表取締役・木村憲仁さんに伺いました。

20年にわたる「コーチング」のトレンド変化

コーチングの考え方は、約20年前にアメリカから日本に輸入されました。「対話を通じてクライアントの願いを実現する」というコンセプトは非常に新鮮でありながら、これまで暗黙的に行われてきたコミュニケーションにメソッドが与えられたことで、2000年代前半に日本でも大きなブームとなりました。

ブームの背景には、長らく続く不況による社会不安や不確実性の高さがあります。経済の膨張に後押しされてきた成長軌道を失った企業が変革を図るために、従業員のモチベーションや自律性という概念が重視されるようになり、コーチングに注目が集まりました。

第1次コーチングブームとも呼ぶべき時期にまず流行したのは、エグゼクティブ・コーチングです。経営者が不確実な外部環境や自社の状況と向き合い、意思決定していくプロセスを助ける手段としてコーチングが認識されたのです。経営顧問という概念が存在していたこともあり、 決裁者と効果を実感する人が同じであるなどの理由から、比較的自然に市場に受け入れられました。

加えて、マネージャーが部下をモチベートする手段として、研修メニューの1つという意味でもコーチングは浸透してきました。エグゼクティブがコーチングの価値を実感し、自社のマネージャーにもスキルとして身につけてほしいという要望に繋がりやすかったことも要因でしょう。単価の面でも、集合型の研修であれば比較的リーズナブルに拡大できたという背景から、さまざまな企業のマネジメント研修に取り入れられていきました。

しかし、第1次ブームには功罪があります。コーチングの有用性について一定の認知は広がった一方で、本来のコーチングの可能性から考えるとやや限定的な用途に押し込められてしまいました。「コーチングを研修で学んでも実践できない」という企業のマネージャーの声が多く、落胆に繋がりやすい構造にありました。

多様化の時代に求められる、組織の求心力とは

そして、第1次コーチングブームから20年ほど経過した2020年前後の昨今、再びコーチングが注目され始めています。

理由は、“働く人”の多様化が進んだからです。働き方改革や終身雇用制度の見直し、パンデミックによるリモートワークの急激な浸透、会社中心主義から個人生活中心主義への劇的な変化などにより、加速度的に多様化が進みました。

それにより、企業は「従業員が会社の外に意識が向きやすい”遠心力”がかかった状態でも、いかにエンゲージメントを失わずに経営するか?」という難題に直面しています。

これまでの対面業務・長期雇用を前提としたマネジメントでは、組織が多様性に耐えられなくなってきているのです。現に、変化に敏感な働き盛りの若手や、ライフステージの変わる子育て世代の退職が相次いでしまう事象が、多くの大企業で起きています。

メンバーが求めているのは、「この会社にいることで自己成長できる」という実感です。自分でキャリアを築いていく時代だからこそ、働き手は「このままで良いのか?」という疑問を常に自分自身に投げかけています。

だからこそ、「自分自身を尊重してくれて、ありたい姿に向けた成長を支援してくれる環境であるか?」という点が組織への求心力に繋がります。

見直されるコーチング。マネジメントスキルから、自己理解・自律的成長へ

そうした背景を受け、組織において「いかにして、個の生活を尊重しつつ組織への求心力を働かせるか?」というテーマが非常に重要になってきており、その変化は人の結束点となるミドルマネジャーへの期待となってのしかかっています。

そんななか、マネジメントの在り方を変えていく手法として再び注目を集めているのが「コーチング」です。初期のブームとの違いは、マネジメントスキルとして研修される形ではなく、マネージャー自身がコーチングを受けることで自己理解を進め、人格的な成長を促し、相対するメンバーのエンゲージメントを高めていくというより本質的な用途に変わったことです。

コーチングがマネージャーの育成手法として有効だと見なされている理由には、以下の3点が挙げられます。

1.個々人の直面する”生の課題”から学ぶことができる
2.深い内省により、自分自身をメタ認知して行動を変えられる
3.傾聴される体験を通じて、マネージャー自身も傾聴に対する意識が上がる

多くの日系企業のマネージャーは、プレイヤーとしての優秀さを評価されてマネージャーへと昇進しています。その結果、人に育てられたというよりも自力で成長してきたという認識が強く、実は人を育てることに苦手意識を抱いているケースが多くあります。

コーチングは、そうしたマインドセットを解きほぐすのに有効です。人に傾聴してもらうことで経験学習が促され、自分が成長する経験をするなかで「人は、人の関わりによって成長できる」ということに確信を持ち、結果的にメンバーへの関わり方も変化していきます。

マネージャーの自律的成長を促し「“人を育てる人”を育てる」ことが、コーチングの導入によって起こる組織の変化のエッセンスだと言えます。

多様性が低い組織で通用していた”ツーカー”コミュニケーションを捨て、自分を含むメンバーの多様性を尊重しつつ、対話を通じて求心力を発揮することがこれからのマネージャーの必須要件となるでしょう。

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木村憲仁NORIHITO KIMURA

コーチングサービス「mento」を展開する、株式会社mento代表取締役。2014年、リクルートホールディングスへ入社後、販促領域のプロダクトマネージャーを4年半務め、消費者向けのサービス開発を牽引し事業成長に貢献。2018年に株式会社mentoを創業し、個人・法人向けにサービスを展開。延べ2万時間以上のコーチングセッションを提供し、ミレニアル世代のビジネスパーソンの成長を支える。

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