management 経営/マネジメント

組織の古い価値観や慣習を変えるために、上司が最初にすべきこと

2023/07/13 Thursday
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「なんとなく」「前例で」残ったままになっている、価値観や慣習。企業や組織の中にもそういったものが見受けられることは珍しくありません。

皆が古いと感じているにも関わらず、なぜそのような価値観や慣習は残り続けるのでしょうか。また、価値観や慣習を変え、組織改革を起こすには何が必要なのでしょうか。

経営者やマネジメント層に求められる考え方やアクションについて考えます。

前例踏襲はなぜ変わらないのか?

最近、Z世代の「残業時間」に関する実態調査2023(調査:株式会社オロ)が出ていたのですが、調査の中で「古いと思う『仕事』に関する価値観」について言及されていました。

1位「上司より先に帰ってはいけないという暗黙のルール」82.8%

2位「新人は誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰る」79.9%

3位「残業時間は長い人ほど頑張っている」71.7%

「Z世代の「残業時間」に関する実態調査2023」より

調査では、Z世代は「意味のない前例踏襲は避ける」という話もありましたが、Z世代でなくとも「上司がまだ会社にいるので先に帰りにくい」という例のように、昔から続いている慣習を変えたいと思ったことがある人は少なくないのではないでしょうか。

でも、問題の本質は、そういう価値観や慣習を古いと思っている人がたくさんいるのに、なぜいまだに残っているのかという部分です。

残業の例以外にも、本来は変えるべきなのに前例を踏襲してそのままのやり方で仕事をしているケースは少なくありません。

前例踏襲という選択は、それが正しいのか、他にもっといいやり方がないのかなどを考える必要がないということでもあり、主体性を持って仕事をしているとは言い難い状況だと言えます。

価値観や慣習を変える前に、制度や仕組みを変えよう

前例踏襲の古い価値観や慣習を変えるためには、どうすればよいでしょうか?

そのためには、まず「ハードOS」と「ソフトOS」の考え方を知る必要があります。「ハードOS」とは人事制度や社内の仕組みのことで、「ソフトOS」とは個人の価値観や組織に残る風習などのことです。

組織改革や業務変革を行う際の鉄則は、ソフトOSはそう簡単に変わらないと考えて、まずハードOSにフォーカスすることと言われています。つまり、人はそう簡単に変わらないので人を変えるのではなく仕組みや制度を変えることを優先し、その結果としてソフトな部分も変わればなお良しと考えるということです。

言い換えると、仕組みやシステムを変えることで行動が変わり、その結果、成果が上がり成功体験が積み上がると自信が出てきてだんだん個人や組織の価値観も変わっていく、新しい価値観が生まれてくるという順番を意識しているかということでもあります。

行動・事実の積み重ねこそが、価値観や雰囲気を作る

例えば、「上司より先に帰りにくい」という暗黙のルールがあったとします。

それに対して、「そんなことないから帰っていいよ」と発信するのは価値観や雰囲気を変えようという施策であり、ソフトOSに対しての対策です。しかし、残念ながらこれはあまり意味がありません。

それよりも管理職の残業を禁止し、「管理職は18時半以降はオフィスにいてはいけない」という制度を作ってしまう方が、結果的に上司は誰よりも早く帰ることになり、上司がいるので部下が帰れないという問題自体がなくなります。

問題の本質は、「帰りにくい雰囲気がある」ことではなく「実際に上司が残っていることで部下の残業が発生している」ことです。それをなくすことで、雰囲気や価値観に関係なく問題は解消できます。

上司が残っていると早く帰りにくいという雰囲気は残ったままになるように思えますが、実際に毎日上司が早く帰っていれば、部下はそういった気持ちになることはほぼなくなり、だんだんと帰りにくいという雰囲気は出なくなってくるでしょう。

もし、この職場に新卒社員が入ったとして、上司が18時半にはいつも帰っていてそれが当たり前になっていれば「上司が残っているので帰りにくい」という考え方や価値観すら生まれないのではないでしょうか。

つまり、行動・事実の積み重ねこそが価値観や雰囲気を作るのだと思います。管理職に求められるのは、何が問題なのかを見極め、どんな制度や仕組みを作って組み合わせれば人の行動が変わるのか、そしてその結果として今回のような価値観をなくせるのかを考えることです。

ついつい価値観に注目しがちですが、それよりも行動を変えること、そのための仕組みや制度、システムを作ることが先決です。行動が変われば、問題は解消し、結果として価値観も変化していきます。

同時に、人間のインセンティブや効用などについて理解することも重要です。経済学や経営学の中に「エージェンシー理論」や「ゲーム理論」など、人間がどういったことにインセンティブを持って行動するのかという理論はたくさん存在していますし、それ以外にも仕組みや制度のもとになる考え方や理論は有名なものがあり、マネジメントの活用事例もたくさん存在しています。

そういったことを経営者・管理職が自ら学んでいるかどうか、そしてシステムや制度を設計する能力があるかないかーーそれらが、組織改革や業務変革のキーになるかもしれません。

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石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA

働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。

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