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育休中のリスキリング発言が炎上した理由を考えてみる

2023/02/01 Wednesday
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先日、賃金上昇に向けての答弁の中で、賃上げの一環として重視する個人のリスキリングについて、産休や育休中の人が取り組むことを支援する考えを示し、その発言がSNSでも炎上し、翌日に補足説明するという事態になっています。

参照記事:https://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000285148.html

実際は、自民党の大家議員の「子育てのための産休・育休がなぜ取りにくいのか。この間にリスキリングによって、一定のスキルを身に付けたり、学位を取ったりする方々を支援できれば、逆にキャリアアップが可能になることも考えられます」という質問に対して、「育児中など様々な状況にあっても、主体的に学び直しに取り組む方々をしっかりと後押しして参ります」と発言したのであり、よく見ると答弁としては普通のやりとりです。

ではなぜ炎上したのでしょうか。

もちろん、産休・育休中の人からすると小さいお子さんがいて毎日眠れない、24時間必死に育児をしているのに、
さらに頑張ることを求められているように見えたこともあるでしょう。

ただそれ以上に、産休・育休や子育て、女性や親としての就業環境についての構造に触れていないことが大きいのではないかと思っています。

例えば、育休明けに仕事に復帰しようと思っても保育園に入れなければ復帰できません。
それでも仕事で復帰するためにベビーシッターや認可外保育園に預けざるを得ない人もいますが、そうなってくると非常に高額なお金を必要とするのも事実です。

また復帰してもしばらくは時短勤務になる方が少なくありません。
時短の場合、通常のフルタイムの時と同じ仕事につけなかったり、出世できなかったり、評価がされにくかったりという人事制度が残っている会社もまだまだ多いです。
つまりスキルがないからではなく、スキルがあってもそれを発揮したり評価されないような構造に問題があります。

そのような構造を変えていかない限り、産休・育休明けの人がそうじゃない人と対等に評価されるには人一倍頑張らないといけません。子どもがいるからといって普通の人以上に努力をしないといけない社会をどう変えるか、そのためのボトルネックになっている構造や制度をどう解消するのか、が放置されている中で「リスキリング」「スキルアップ」という言葉は「もっともっと頑張れ」と言っているように聞こえるのではないでしょうか。

自民党の大家議員の発言でも「逆にキャリアアップ」という言葉があります。
つまり一般的に見て、産休・育休はキャリアダウンであると認識されているということの裏返しでもあります。

産休・育休はお子さんを産み・育てる期間であり、親として身体的・精神的に慣れていくための期間であって、それ以上でもそれ以下でもありません。
なのにそれを行うとキャリアダウンになってしまう社会や会社の構造にこそ問題があります。

産休・育休中の人が「より頑張らないといけない社会」ではなく、お子さんがいても、時短勤務であっても、それとは関係なく自分のキャリアが築ける社会をどうやったら作れるか、についての議論が待ち遠しいと思っています。

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※この記事は、2023年2月時点の情報をもとに執筆しております。

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石倉 秀明HIDEAKI ISHIKURA

働き方に関する調査・分析・研究を行うAlternative Work Lab所長。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程在籍。『Live News α』(フジテレビ系列)、『ABEMAヒルズ』(ABEMA)コメンテーターや『ダイヤモンド・オンライン』での連載、書籍執筆などの活動も行う。著書に『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』『THE FORMAT』等。